「4歳で我慢できた子は成功する」はどこまで本当?マシュマロテストの再検証から分かること【非認知能力シリーズ第3回】
宿題を後回しにする。
勉強を始めても、すぐにスマホに手が伸びる。
「あと5分」が、1時間になる。
そんな姿を見ていると、つい思ってしまいませんか。
「うちの子は、我慢する力が足りないのかな」
「4歳のときに、目の前のお菓子を我慢できた子は、将来成功する」
この話を、どこかで聞いたことがある方も多いと思います。
有名な「マシュマロテスト」です。
実はこの話、2018年の再検証で、かなり書き換えられました。
ただし、「全部が嘘だった」わけでもありません。
この記事では、再検証で分かったことと、それを踏まえて、
ご家庭と塾で何から整えればよいか
をお伝えします。
1. 「我慢できない子」と決めつける前に、知っておきたいこと
先に、この記事の要点を書きます。
- マシュマロテストの「我慢できた子は成功する」という話は、2018年の再検証で、関連がだいぶ小さくなった
- ただし、全部が嘘ではない。小さな関連は、条件つきで残った
- 別の実験では、約束を守る大人がいる環境かどうかで、子どもが待てる時間が大きく変わった
- だから、「我慢しなさい」と言う前に、環境を整えることから始めるのが現実的
「我慢の力は、大切ではない」
と言いたいわけではありません。
順番の話です。
2. マシュマロテストとは、どんな実験だったのか
1970年代にスタンフォード大学で行われた実験です。
幼い子どもの前にお菓子(マシュマロなど)を置き、こう伝えます。
「先生が戻ってくるまで食べずに待てたら、もう1つあげるよ」
待てた子と、すぐに食べてしまった子。
その後の追跡で、
待てた子のほうが、青年期の学力テストの成績が高い
という結果が報告されました。
この話が広まり、こう語られるようになります。
「幼いころの我慢する力が、将来を決める」
教育や子育ての場でも、よく引用されてきました。
「自制心を鍛えよう」
という考え方の、土台になった実験です。
3. 2018年の再検証で、何が書き換えられたのか
2018年、Psychological Scienceという学術誌に、
再検証の論文が発表されました(Watts, Duncan & Quan)。
どんな研究だったのか
米国の大規模な追跡調査のデータを使い、
4歳半のときの「待てる力」と、
15歳のときの学力・行動との関係を調べています。
- 分析対象:918人
- そのうち、母親が大学を卒業していない家庭の子どもが552人
- 大学を卒業している家庭の子どもが366人
- 待つ時間の上限:7分(約55%の子どもが、上限まで待てた)
元の実験とは、データも測り方も異なるため、
研究者は「概念的な再現」と位置づけています。
書き換えられた点
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| 元の研究との比較 | 待てる力と学力の相関は、元の研究の約半分の大きさ |
| 家庭の環境を考慮した場合 | 家庭背景・幼い頃の認知能力・家庭環境を揃えると、関連は約3分の2減少 |
| 行動面(問題行動など) | 待てる力との関連は、ほぼ見られなかった |
元の研究では、
SAT(米国の大学進学用テスト)の数学で相関が0.57、言語で0.42と報告されていました。
今回の再検証では、その半分ほどでした。
一番の注目点:「20秒」
もう1つ、興味深い結果があります。
学力の差の大部分は、
少なくとも20秒待てたかどうか
で生じていた、というものです。
「何分も待てたかどうか」ではなく、
「最初の20秒を越えられたかどうか」。
我慢の長さを競うものではない、
ということが読み取れます。
4. 全部が嘘ではなかった。でも、条件がつく
残ったもの
家庭の環境などを考慮したあとも、
小さな関連は残りました。
4歳半で1分長く待てた子は、
15歳の学力が、約0.1標準偏差高い傾向がありました(家庭背景などを揃える前の数字です)。
つまり、
「待てる力と学力は、まったく無関係」
とまでは言えません。
消えたもの
ところが、さらに
4歳半のときの認知・行動の指標
も考慮すると、関連は統計的に有意ではなくなりました。
この研究の著者らは、次のように述べています。
- 因果関係(待てる力が学力を高める)を示すものではない
- 待てる力だけを鍛える介入は、より広い認知・行動の力が変わらなければ、後の成果への効果が限られるかもしれない
注意したい限界
- 全国を代表する標本ではない
- 満足遅延の測定時間に上限があり、約55%の子が上限に達した
- 日本の子どもに当てはまるかどうかは、この研究からは分からない
「4歳で我慢できた子は成功する」という見方は、
ずいぶん割り引いて考える必要がある。
そして、「だから我慢は無関係」とも言えない。
これが、現時点での整理です。
5. 待てるかどうかは、「環境」で変わる
では、待てない子は、意志が弱いのでしょうか。
それを考えさせる、別の実験があります。
約束を守る大人がいたら
2013年のKiddらの研究です。対象は、3歳半〜5歳の子ども28名。
実験の前に、子どもを2つのグループに分けました。
- 約束を守る実験者と過ごすグループ
- 約束を守らない実験者と過ごすグループ
そのうえで、マシュマロテストを行っています。
結果は次のとおりです。
| 待てた時間の平均 | 15分まで待ち切れた子 | |
|---|---|---|
| 約束を守らない環境 | 約3分 | 14人中1人 |
| 約束を守る環境 | 約12分 | 14人中9人 |
同じ年齢の子どもでも、
「待っていれば、ちゃんと報われる」
と信じられる環境かどうかで、
待てる時間が大きく変わりました。
ここから言えること
目の前のお菓子を食べてしまう子は、
意志が弱いのではないのかもしれません。
「待っても、約束は守られない」
という経験をしてきた可能性もあります。
この研究は28名と小規模で、一つの実験です。
ただ、「待てるかどうか」を、
本人の意志だけの問題として見てよいのか、
立ち止まらせてくれる結果です。
6. 「我慢させることが大事」派と「環境を整えるのが先」派、研究は何と言っている?
ここまで読んで、こう思われた方もいるかもしれません。
「じゃあ、我慢する力は、大切じゃないの?」
そこで、2つの見方を、研究に照らして整理します。
「我慢させることが大事」派の言い分
幼少期の自制心は、
大人になってからの結果と関わる、
という研究があります。
Moffittらの研究(2011年)
ニュージーランドの約1,000人を、出生から32歳まで追跡しました。
- 3歳頃の自制心が低い子ほど、成人後に、健康・お金の管理・犯罪歴などの面で不利になる傾向があった
- IQと社会階層の差を調整したあとも、関連は残った
- 英国の双子の研究では、家庭環境を揃えても、5歳時点の自制心の低さが、12歳時点の問題と関連していた
自制心は、やはり大事だ、という根拠になります。
ただし、観察研究で、因果を証明するものではありません。
「環境を整えるのが先」派の言い分
- マシュマロテストの再検証で、家庭環境を考慮すると、関連が小さくなった(Watts ら、2018年)
- 約束を守る環境では、待てる時間が約3分から約12分に伸びた(Kidd ら、2013年)
さらに、
「我慢の練習」
そのものにも限界が指摘されています。
Kassaiらのメタ分析(2019年)
子どもの実行機能(ワーキングメモリや抑制する力など)を
鍛える研究を整理した結果です。
| 効果の大きさ(g) | 結果 | |
|---|---|---|
| 訓練した機能そのもの(近い転移) | 0.44 | 有意に向上した |
| 訓練していない別の機能(遠い転移) | 0.11 | 有意な効果は確認されなかった |
つまり、ある力を単独で鍛えても、
別の場面に広がるとは限らない、
ということです。
ただし、これは実行機能の訓練の研究であり、
「ご家庭での約束づくり」
を調べたものではありません。
2つの見方の接点
並べてみると、どちらかが正しいというより、こう整理できます。
- 自制心は、人生の結果と関わる。大事なものである
- ただし、幼い頃の「待てる力」の差は、環境で大きく変わる
- 「我慢の練習」だけを、単独で積んでも、広がるとは限らない
そこで当教室では、
まず環境を整えたうえで、日々の習慣の中で育てる
という順序で考えています。
7. 家庭と塾でできる「環境が先」の具体策
「環境を整える」と言われても、
何をすればよいか分かりません。
勉強の場面で、具体的に示します。
| 場面 | 環境の整え方 | 習慣として育てること |
|---|---|---|
| スマホ | 勉強中は、別の部屋の決まった場所に置く | 置く時間と取り出す時間を、本人と決める |
| 宿題 | 続けられる量に区切る | 終わったら、必ず認める |
| テスト前 | 逆算の計画表を、一緒に作る | 計画どおり進んだ日に、小さく確認する |
| 約束 | 大人が約束を守る(ごほうびや時間の約束を忘れない) | 子どもにも、小さな約束を守る機会をつくる |
声かけのコツ
- 「なんで我慢できないの」ではなく、「どうしたらやりやすいかな」
- 守れたときは、小さくても認める
- 守れなかったときは、責めずに、環境の側を一緒に見直す
「約束を守る」ことを、大人から
Kiddらの研究が示すように、子どもは、約束が守られる経験から、「待てば報われる」と学びます。
当教室でも、次のことを大切にしています。
- 無理な勧誘は、一切しない
- 体験の条件や、伝えたことは、そのとおりに行う
- 塾長が全授業を直接指導し、一人ひとりの様子を見る
大人が約束を守る。
その積み重ねが、お子さんの
「続けよう」
という気持ちの土台になると考えています。
8. まとめ:「続かない」を、意志の弱さと決めつけない
- 「4歳で我慢できた子は成功する」は、2018年の再検証(918人)で、関連が元の約半分になり、環境を考慮するとさらに約3分の2減った
- 全部が嘘ではなく、小さな関連は条件つきで残った。ただし因果は示されていない
- 約束を守る環境では、子どもが待てる時間は約3分から約12分に伸びた(28名の実験)
- 自制心は大切。ただし、単独の訓練が別の力に広がるとは限らない
- だから、まず環境を整え、日々の習慣の中で育てる
今夜、お子さんの勉強の様子を、1つだけ見直してみてください。
スマホの置き場所は、決まっていますか?
決まっていなければ、お子さんと一緒に、置き場所を決めるところから始めてみてください。
あなたは、どちら派ですか?
最後に、問いかけです。
- 「我慢させることが大事」派?
- 「環境を整えるのが先」派?
ご家庭で実践されていることや、
迷っていることがあれば、
ぜひ教えてください。
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