「わかりません」の次に言えること|成績が伸びる子の質問の型【非認知能力シリーズ第1回】
勉強を教えていて、お子さんにこう言われたことはありませんか。
「ここ、わかりません」
「どこが?」と聞いても、返ってくるのは「全部」。
「どこまで分かったの?」と聞くと、黙ってしまう。
こうなると、教える側も何から手をつければよいか分かりません。
お子さんも、教えてもらっているのに、スッキリしない顔をしています。
実は、これはお子さんの理解力の問題ではありません。「分からない」
を言葉にする練習を、まだしたことがないだけです。
雙葉進学教室では、この練習を授業の中でルールにしています。
この記事では、そのルールである「質問の型」と、
その背景にある研究、家庭でできる声かけをお伝えします。
1. 「わからない」の中身を言葉にできる子が、伸びていく
先に、この記事の要点を書きます。
「わかりません」の一言で終わらせず、
「どこまで分かって、どこから止まったのか」
を言葉にする。
この習慣が、数学・理科の成績を伸ばす土台になります。
当教室では、質問のときに次の3つを言ってもらいます。
- どこまでは分かったか
- どこから方針が立たなくなったか
- どの条件を、どう使おうとしたか
この3つを言ってから、塾長の解説に入ります。「わかりません」
の一言だけでは、解説に入りません。
厳しいルールに聞こえるかもしれません。
ただ、目的は叱ることではありません。
「分からない」の先に進むための、言い方を渡すこと
です。
これは、心理学で「メタ認知」と呼ばれる力を鍛える練習でもあります。
メタ認知とは、
自分の理解や考えを、
もう1人の自分が見るように確かめる力のことです。
2. 「わからない」は、実は3種類ある
理由:止まっている場所によって、必要な手助けが違う
お子さんの「わからない」には、中身の違うものが混ざっています。
数学の文章題を例にすると、次の3つに分けられます。
(当教室の指導の中で整理している、想定上の分類です)
| お子さんの「わからない」 | 実際に起きていること |
|---|---|
| 問題の意味が分からない | 問題文の読み取りでつまずいている |
| 方針が立たない | どの条件を、どう使えばよいかが見えていない |
| 方針は立ったが、途中で止まる | 計算や式の変形の実行でつまずいている |
3つとも、本人の口からは「わかりません」になります。
でも、必要な手助けはまったく違います。
- 問題の意味 → 場面を図にかいて、読み取りを確かめる
- 方針 → 使っていない条件を探す
- 実行 → 計算の途中式を見直す
「わかりません」
の一言のままでは、この3つの見分けがつきません。
だからこそ、
本人に、止まった場所を言葉にしてもらう
ことが大切なのです。
言葉にするだけで、自分で気づくこともある
3つの質問に答えようとして、
途中で自分で気づくお子さんもいます。
「どこまで分かった?」と考えているうちに、
「あ、ここの条件を使ってなかった」と気づく。
こうした場面は、授業の中でよく見られます。
質問の型は、塾長に伝えるための道具であると同時に、
自分の考えを整理するための道具
でもあります。
3. 当教室の「質問の型」:3つを言ってから、解説に入る
3つの言い方
当教室の質問の型は、次の3つです。
| 質問 | 子どもの言い方の例 |
|---|---|
| ① どこまでは分かった? | 「2本の式を立てるところまでは、分かりました」 |
| ② どこから方針が立たなくなった? | 「でも、2本目の式を何と何でつくるのかが、分かりません」 |
| ③ どの条件を、どう使おうとした? | 「『合計が1,500円』は、1本目に使いました」 |
この3つが言えると、塾長はすぐに、次の一言を返せます。
「2本目に使える条件は、まだ残っているね。『差が300円』はどう使えそう?」
解説を最初から全部するのではなく、
止まった場所の手前から、必要なことだけを伝える
ことができます。
結果として、解説は短く、本人の頭に残りやすくなります。
最初から、完璧に言える子はいません
はじめは、うまく言えなくて当たり前です。
当教室では、段階に分けて進めます。
| 段階 | 子どもの言い方 | 目安 |
|---|---|---|
| 第1段階 | 「ここで止まりました」(場所を指す) | 指で示すだけでもよい |
| 第2段階 | 「〜までは分かって、〜から分かりません」 | 手順を言葉にできる |
| 第3段階 | 「〜の条件を〜に使おうとしましたが、〜になって進みません」 | 自分の考えを説明できる |
言えない子には、塾長が
「ここまでは合ってる?」と聞き、
うなずく形から始めます。
少しずつ、自分の言葉で言えるようになっていきます。
4. 研究では、何が分かっているのか
質問の型そのものの効果を、直接調べた研究は、
今回は確認できませんでした。
ただ、関連する研究が3つあります。
それぞれ、限界もあわせてお伝えします。
①メタ認知を教える指導は、学習の進みに効果があるとされています
英国の教育効果研究機関 EEF(Education Endowment Foundation)が、
教育研究の結果を整理しています。
メタ認知と自己調整学習(自分の学びを計画・確認・振り返ること)の指導は、
平均で約7か月分の追加の学習進度
に相当するとされています(効果量0.58)。
| 対象 | 追加の学習進度 |
|---|---|
| 小学生 | 約8か月分 |
| 中等教育段階 | 約7か月分 |
数学と理科での効果が特に高く報告されています。
また、方略を
明示的に教え、教える側が自分の考えている過程を見せて手本にする
ことが推奨されています。
限界:英国の学校での研究の平均です。
多くの研究が独立した評価を受けておらず、
提供者自身の評価では効果が大きく出やすい、
という指摘もあります。
「当教室で7か月分伸びる」という意味ではありません。
②自分で説明すると、理解が深まります
Chiらの研究(1994年)では、中学2年生相当の生徒が対象でした。
人体の循環系の文章を、1行ずつ読むたびに
自分の言葉で説明してもらった群(14名)と、
同じ文章を2回読んだだけの群(10名)
を比べています。
説明を促した群のほうが、理解の伸びが大きい結果でした。
また、自分で多く説明した生徒ほど、深い理解に至っていました。
限界:生徒は合計24名と少なく、扱った内容は理科の循環系です。
数学の質問の仕方を直接調べたものではありません。
③助けの求め方には、質の違いがあります
学業の援助要請(助けを求めること)の研究では、
次の2つが区別されています。
- 答えだけを求める型:成績や外的な報酬を重視する傾向があり、学び方は求めない
- 理解のために助けを求める型:やり方を学び、理解そのものを目指す
解説記事では、後者が望ましい姿として描かれています。
限界:確認できたのは解説記事で、主な対象は大学生です。
数値も示されていません。
小中学生にそのまま当てはまるとは言えません。
3つの研究から言えること
3つとも、直接「質問の型」を調べたものではありません。
ただ、重なる方向があります。
- 自分の考えを言葉にして確かめることは、理解を深めるとされている
- 助けを求めるときも、答えをもらうだけではなく、理解を目指す質問が望ましい
質問の型は、この方向に沿った練習だと、当教室は考えています。
5. 型がないときと、あるときで、会話はこう変わる
同じ問題で止まった、2つの質問
連立方程式の文章題で止まった生徒の会話を、並べてみます。(記事用に作った想定例です)
問題:ノート3冊とペン2本で700円。ノート1冊とペン4本で600円。ノート1冊とペン1本の値段は、それぞれいくらか。
| 型なしの質問 | 型ありの質問 | |
|---|---|---|
| 生徒 | 「この問題、わかりません」 | 「ノートをx円、ペンをy円とにするところはわかるんですが、どうやって式にしたらいいのかわかりません」 |
| 塾長 | 最初から、全部の解説をする | 「ノート3冊とペン2本の代金をx、y使って表すとどうなる?ノート3冊とペン2冊合わせると700円になるから、これを式にすると?」 |
| 生徒の気づき | 解説を聞いて、「そうなんだ」と思う | 「ノート1冊とペン4本のほうも同じようにすればいいんですね?」と、自分で気がつく |
左の列では、
塾長が最初から説明するので、時間がかかります。
説明を聞いても、
自分がどこができないのか、本人が気がつきにくい
ことがあります。
右の列では、
本人が自分の止まった場所を言えています。
その結果、
塾長の一言が短く済み、本人の気づきも生まれます。
型があると、塾長にも見えるものがある
もう1つ、大きな違いがあります。
型ありの質問では、生徒の思考のくせが見えてきます。
- 条件を、1回使うと満足して、残りを忘れる
- 式は立てられるが、どの数量を文字にするかで迷う
- 図をかかずに、頭の中だけで進めようとする
こうした癖は、答案の点数だけでは見えません。
言葉にしてもらうことで、塾長は
一人ひとりの考え方に合わせた指導
ができます。
6. 家庭でできる声かけ:「責めずに、一緒に探す」
質問の型は、ご家庭でも使えます。
ポイントは、
叱るためではなく、一緒に探すために使う
ことです。
手順
- お子さんが「わからない」と言ったら、まず受け止める
「そうか、ここで止まっているんだね」 - 次の3つを、順番に聞く
- 「どこまでは分かった?」
- 「どこで止まった?」
- 「どの条件を、どう使おうとした?」
- 答えられなくても、責めない
「じゃあ、一緒に探そう」 - 言えたときは、認める
「今の言い方、先生にもちゃんと伝わるよ」
気をつけたいこと
- 答えをすぐに教えない:お子さんが考える時間を、少し待ちます
- 3つ全部を、一度に求めない:まずは1つ目だけでも十分です
- 「なんで分からないの」とは言わない:「分からない」の言い方を覚える途中です
「わかりません」
と言えること自体は、悪いことではありません。
言えるのは、
分からないことを隠さないという、大事な姿勢
だからです。
そこから、もう一歩だけ進めるのが、質問の型です。
7. 非認知能力は、授業の中で育てられる
最近は、「非認知能力」という言葉をよく聞きます。
意欲、粘り強さ、協調性など、点数で測れない力の総称です。
文部科学省の教育課程企画特別部会(令和7年4月)の参考資料では、
OECDの社会情動的スキルを
「目標の達成」
「他者との協働」
「情動の制御」
の3つで紹介しています。
また、学習方略などの「入口の情意」は、
授業の工夫や継続的な訓練、習慣化によって育まれる、
と整理されています。
つまり、非認知能力は生まれつきのものだけではなく、
日々の練習で育てられる部分がある
と考えられています。
質問の型は、その練習の1つです。
- 自分の理解を、もう1人の自分が確かめる(メタ認知)
- 感情的に「分からない」と言わず、事実を整理する(情動の制御)
- 目標に向かって、止まった場所から進む(目標の達成)
数学や理科の勉強をしながら、同時に鍛えられる力です。
このシリーズでは、
質問の型に続いて、振り返り、計画、習慣づくりなど、
授業の中で育てる非認知能力
を取り上げていきます。
8. まとめ:「わかりません」の先を、一緒に言葉にしてみませんか
- 「わからない」には、意味・方針・実行の3種類がある
- 当教室の質問の型は、3つ:どこまで分かった/どこで止まった/どの条件をどう使おうとしたか
- メタ認知の指導は、平均で約7か月分の学習進度に相当するとされる(英国の研究。条件つきの結果)
- 自分の言葉で説明する練習は、理解を深めるとされる(Chiらの研究)
- 家庭では、責めずに、一緒に探す
今日、お子さんが「わからない」と言ったら、1つだけ聞いてみてください。
「どこまでは、分かった?」
この一言が、「わからない」を、次に進む手がかりに変えるきっかけになります。
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「質問できない」
「分からないところを、うまく説明できない」
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そのようなお悩みは、お子さんの質問の仕方を見ると、原因の見当がつくことがあります。
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